映画を持ってケニアを再訪してきた小林監督から画像と報告文が届きました。
これをベースとした内容の文章は、11月27日(土) 新潟日報を皮切りに、北海道新聞や徳島新聞にも掲載される予定です。それぞれ各地にお住まいの方はお楽しみに。
ケニア再訪―完成した映画を子どもたちに届けて
小林茂
アフリカ・ケニアのストリートで生きる子どもたちの日常と心情を描いたドキュメンタリー映画「チョコラ!」。(チョコラはストリートチルドレンの呼称)。この映画をもって、カメラマンの吉田泰三(ゾウ)さんらと、4年ぶりにケニアを再訪した(10月24日~11月10日)。映画に登場する人々に見てもらうためである。私はナイロビの大学病院まで週3回人工透析に通うという日程であったが、皆に助けられて、目的をほぼ達成した。そして、この映画がケニアで新たなスタートラインに立ったという思いを強くもった。

首都ナイロビから北東へ45キロの地方都市ティカ。街の賑わいは変わらなかったが、子どもたちに変化があった。路上で亡くなったマウラ。シンナーで精神を病んだ少年。夜、泥棒とまちがわれたのか射殺されたというスティーブン。一方、シンナーを止め、学校に復帰した子どもや、職業訓練校に入学した子どもなど、さまざまな人生模様があった。

タウンのはずれにNGOモヨ・チルドレン・センター(松下照美主宰)の「子どもたちの家」が建った。昨年の映画公開と同時に、設立キャンペーンがすすめられた家である。
日本からのサポーター、ストリートの子どもたち、ケニアの関係者など200人余りが集い、その完成を祝った。誰もがテルミ(松下さんは地元ではこう呼ばれている)の実直な子どもとの関わり方に賛同の声を上げた。アフリカで活動を始めて16年目のことである。

「コバとゾウ(監督とカメラマンの通称)がもどってきた」という情報が伝わり、そこで何回も上映会を開いた。
メタルやプラスチックを拾うグループが大勢かけつけてくれた上映会は、大騒ぎだった。しかし、個々の内面を映し出す場面では、静かに見守った。もう、彼らは大人であった。
その中のひとり、ボダボダ(自転車タクシー)の運転手をしているムイガイ(22)が「どうしても家にきてほしい」という。ゾウさんと二人でスラムの一角にある小さな部屋を訪ねた。なんと、お嫁さんとよちよち歩きの子どもが出迎えてくれたのだ。

「映画を見て苦しい時代を思い出した。家もなく、食べるものもなく、街で寝起きしたもんだ。メタル拾いで少しずつ金をためて自転車を買った。今は、家族もできて幸せだ。しかし、あの頃の気持ちを忘れてはいけないと思った」と彼は語った。思春期から青年期へ移行する4年の歳月の重みを感じた。

映画の中では、父親との確執を描いたアンドリュー(18)にも会えた。今は、シンナーをやめ、イギリス人の青年からスポンサーになってもらい、費用が高い私立の寄宿舎つき小学校の6年生。(ケニアは小学校8年制)。この時期、小学校卒業の国家試験があり、学校が休みになったので、会いに来てくれたようだ。「以前の自分とはちがう。映画は見たくない」というようなことを言っていたと松下さんから聞いていたので、私の下手な英語であったが、「自分も親や社会に反発した。だれもがそういう時代を通過していく」「何が幸せか、物や金で計れないこともある。自分らしい人生を歩んでほしい」などと、彼のシーンに託した思いを、1時間ほども話したらしい。(私は夢中でよく覚えていない)。

二人だけで大きな画面で映画を見た。松下さんが「映画はどうだった」と聞くと、「よかった」と言った。そして、ゾウさんと3人で、アンドリューが行ってみたいというタウンにできた新しい店でランチ。別れぎわに「今日、家に帰る」と彼はポツリと言った。

HIVに感染していることを公表して映画に出てくれたルーシーさん(30歳)。二人の子供も登場する。私は思い切って、ケニアでの上映の可否を聞いた。「どこでも上映はOKよ。エイズを抱えながらも働いて子育てしていることを知ってほしい」。毅然とした言葉だった。彼女はHIV感染者に対するカウンセラーの仕事をしていた。「公立病院が把握しているエイズ患者だけでも3800人。それも氷山の一角。家の中に縮こまっている人も多いのよ」
ナイロビでお世話になった日本人関係者への上映会の時のこと。小学生の男の子が映画の感想を述べた。「チョコラは悪い人間だと思っていたけれど、映画を見て、さまざまな事情があって、そうしているんだと思いました」。その「さまざまな事情」という言い方が、小学生から飛び出したので、一同、一瞬の驚きの間があって、拍手がわいた。
以上、簡単ながら、ケニア再訪の報告とする。ほかに、特記すれば、ナイロビマラソンにモヨ・チルドレン・センターの関係者も出場。全員完走。特にゾウさんのフルマラソン完走。4時間50分。全員歓喜の中でのゴールだった。
ケニアで子どもたちといっしょに「チョコラ!」を見て、この映画にはまた、新たな側面があるように感じた。今回の旅で、ようやく映画が完結した気持ちになった。